07.必要とされるなら、道化でもいい


 綺麗な子だとミレイは思った。おにんぎょうさんみたいな子ねぇ、と言うのが実は内心での第一声だ。口に出せば、彼の見かけと同じだけ高いプライドに傷を付けてしまうだろうから、言わなくて正解だったかもしれない。
 色々勘違いをした初対面は、最悪に近かった、様に思える。けれど皇子様と言う生まれに反して、彼は周囲に合わせる術を心得ていた。おかげでミレイの学生生活は非常に充実したものだったと言えるだろう。

 彼を弄るのは楽しかった。彼は人に遊ばれる事を、あまり好まない。隙あらば相手の弱点を見つけ、逆に遊び返すような人間だった。しかし異性で―――この場合は女性で、という意味だ、こんな注釈を付けねばならないのは悲しいことだが―――彼にそのようなちょっかいをかけるのがミレイだけだったせいか、彼はミレイの我が儘に度々嘆息しながらも付き合ってくれたのだった。まるで自分が彼の中で特別のようなその態度に、ミレイの胸は踊った。

 だが、彼と知り合って数ヶ月後、知った事実。

 確かに特別と言えば特別だった。何せアッシュフォードが彼等兄妹の命を握っていたのだから!

 ミレイは、育ちつつあった彼への恋を諦めた。彼が恋愛をしたがっているようには見えなかったが、ミレイが告白すれば、おそらく彼は妹の為に、ミレイの願いを叶えようとするだろう。そんな気持ちがほしいわけではない。 勿論、全くほしくない訳ではない、本当は欲しい。だから、お見合い話が持ち上がるとたまに彼に愚痴を漏らす。すると彼は困った顔をして申し訳なさそうに謝るのだ。別にミレイの気持ちに気付いているわけではない、ただ兄妹を匿って貰うのに必要なアッシュフォードを潰さない為に、ミレイがしたくもないお見合いをしていることを理解しているだけだ。(そして見合いを片端から握り潰し、蹴り飛ばしている労力も知っているのだ。お見合いを嫌がっている事に気付いた時点でミレイに好きな人がいると気付いたらしいが相手が自分だとは思っても見ないところが彼らしいといえばらしい…全く鈍感なんだから!)

 年月を経て、いつしか愛情は親愛に変わった。彼からの気持ちがただの罪悪感ではないと気付いたことでミレイは満たされたのだ。今では多少の胸苦しさを伴う気持ちを押し込め、後輩の恋愛相談に乗れる程になった。その時点で既に彼と会って五年になっていたが、一人娘だったミレイには、彼等兄妹を実の兄弟と言う程近くはないものの、親戚の兄弟のような気がしていた。つまり、見守るスタンスが出来上がったのだ。
 それでも彼が、ミレイの我が儘に甘んじてくれるので、ミレイは今日も皆が、彼が、楽しいと―――思い出に残してくれるよう、強烈な祭を考えるのである。

「さあ皆、チョコの用意は良い?!バレンタイン告白大会開始っ!」








 07.必要とされるなら、いっそ道化でもいい
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 20080206








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