05.ったものと拾われたものの主従論


「スザク、こちらへ。お茶をご一緒しましょう?」
 春の麗らかな陽光だけを浴びて育てばこんな花になるだろう。スザクの初めての主はそんな人だった。友人よりも優しいスミレ色、少しだけ垂れた目尻は柔らかな印象を更に柔和なものにしている。
 本来なら扉の外で控えねばならない身の上だ。だが主の言葉には逆らえない。護衛のSPも控えているし、とスザクは出入口に近いソファに座った。 が、紅茶を注ぐ手の主が主君のものだと気付き、慌てて腰を上げる。
「皇女殿下、自分が、」
「良いのです、スザクは座っていなさい」
 ね?
 上目遣いに見上げられ、何とも言い返せず座り直す。
 白く長い指が、重さのあるティーポットをゆっくりと傾けた。
 力を込めてたわんだ白い腕や指を見ていると、いつぞやの彼を思い出す。
「スザク、どうしたのです?」
 主がソーサーをことりとスザクの前に置きながら尋ねた。
 スザクはストレート、主はミルクと砂糖を少々。こんな所も彼に似ているのだな、と思ってスザクはくすぐったい笑いに駆られた。
「以前、学校の友人に、やはりこんな風にお茶を淹れて貰った事があったのです」
「まぁ、そうなのですか!」
「はい。それで、彼も紅茶はミルクティー派なんですけど、普段はきっちりしているのに、自分の事になると時々ものぐさになるんですよ」
 だから、彼が紅茶を淹れている間は、自分がミルクと砂糖の用意をする事にしたので、今それを思い出したんです。
 主はにこにこと笑っている。スザクを学校に通わせたのは彼女だ。だから、彼との再会も、くすぐったい思い出も、全て彼女のお陰なのだ。
「学校は楽しいですか?」
「はい、とっても!」
「そう、良かった」
 ふわりと笑った彼女に、スザクはありがとうございます、と、万感を込めて言った。

 






 だから、どうか自分から、あの温かな場所を取り上げないで。



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20080204






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