08: 世界が必要としている者なんてひとりもないんだ だから人は人を好きになるんじゃないか。 生きるってなんだ? ピロートークにしては重苦しいテーマだ。ルルーシュの問題提起に、けれど甘い睦言よりもらしいとスザクは少しだけ納得する。 「エネルギーを消費して、触れ合うこと?」 「そんな事は機械だって出来る」 「うーん…人とか、物とかに影響を与えること?」 「生きていなくても可能だな、それは」 そう、死んだ人間だって他人の行動を束縛できるし、情動を揺さ振る事が出来る。そんな事はスザクとて百も承知している。 冷たいルルーシュの返答に、だが此処で自分までも不機嫌になるわけにはいかないとスザクは自制した。問題なのは、こんな事を言い出したルルーシュの事だ。 「怒ってる?僕何か、」 「いや、違う、違うんだ」 ルルーシュはシーツの波の中に身を沈めた。近頃は行為にも慣れて来たのか、意識を飛ばすことは少なくなったがしかしそれでも疲れるのか(少しでも満たされたと感じてくれるならスザクも嬉しいのだが)うとうとと眠ってしまう事が多い。 今日は明日も軍務の為に早く起きなくてはならないスザクの都合と、一限から授業のあるルルーシュの都合とで、早々と切り上げた為、ルルーシュにはまだ余力があるらしい。 もう一回くらいできたかなぁなんて、ルルーシュにばれたら顔を真っ赤にして怒られる事必定な思考を振り捨て、スザクはルルーシュに下着とシャツを渡した。 「じゃあどうしたの?」 うっそりと起き上がり清められた身体に着衣を纏うルルーシュから視線を逸らして、今度は逆にスザクから問い掛ける。 「別に、なんでもないんだ」 まただ、とスザクは感じる。ルルーシュと自分と、間にある埋められない溝の存在が浮き彫りになる瞬間。 穏やかな凍土の上、暗い淵は冷たい風を吹き出しながら突然現れ、しかしまた雪を積もらせてその溝を埋め、何事もなかった様に取り繕うのだ。 「ルルーシュは、何だと思うの?」 「…わからないから聞いたんだ」 質問に質問で返すな、と、本気の色を消して拗ねたようにルルーシュが答えた。 けれど、その目は憂いを湛えたままで。 ちょっと反則かな、と思いながらルルーシュの手を取った。 「?」 シャツを羽織っただけの、素肌の左胸に手を宛てた。 ルルーシュは何故か顔を真っ赤にして離そうとするけれど、別に疚しい事を考えての行動ではないのだからもう少し落ち着いてほしい。 「解る?」 「何が、」 「心臓が動いてる」 「…あぁ、」 温かいでしょう? 言うとルルーシュは頷いた。 一度こじ開けられて、ぱっくりと開いた傷をもう一度開くのは痛い。 けれど。 「罪の塊だ」 「、」 「僕の心臓は」 父を殺した。何が正しかったのか、それは今でもわからない。もしかしたら、自分の採った方法が、結果から見れば最善だったのかもしれない。父が生きていれば、イレブンはもっと過酷な目に会っていたかもしれない。 だが。 「父と、沢山のイレブンの血を流した僕だ。許される筈がない。―――父を殺した時に、ある人に言われたんだけど。」 刃を収める場所を知れ。―――分からぬのなら命を絶て。 「僕は、生きてる。こうして、ルルーシュに温もりを伝えてる、これが生きることだと思う。」 誰かに触れ、他者と違う事を感じとる。自分の形を自覚する。 「世界に許されなくても、大切な事があれば生きていける。誰かが必要としてくれて、」 自分が死ねないと、消えたくないと思っているなら。 詭弁を弄しているようにしか、ルルーシュには聞こえないかもしれない。 一度、あの男に真実を暴かれてしまってからでは尚の事。 だがこれがスザクの偽らざる本音だ。 人は、変わっていく生き物で。今と同じ自分がいつまでも続くと思ったら大間違いだ。 「世界は、別に僕らを必要となんかしていない。でも、拒否もしない。」 だから、生き死にを決めるのは所詮は人だ。 隣人を愛せ。あなたの隣にいる人に温もりを与えて、与えられて。 「生きるって、そういう事じゃないのかな?」 僕は君がいるから生きてる、なんて重くて軽い言葉を吐くつもりはないけれど。 今だって十分重いものを背負っている君の生きる理由に僕の事が含まれていたら、 僕は、 (今際の時にも後悔なんかしない) ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 20071208 ブラウザバックでお戻りください |