07: 生れ落ちた命に無限の愛を さあ、生きて、愛しい子。貴方の世界へようこそ! 乳幼児のけたたましく泣く声が、アリエスの離宮に響き渡る。声の発信源は居心地よく整えられた居間の一画、今日は暖かい日差しのお陰で付けられていない暖炉の程近くに据えられたベビーベッドの中である。 標準体重よりも僅かに未熟児で生まれて来た赤ん坊は、数週間がたった今でもまだ小さい感が否めないが、泣く声の力強さは他の子供にひけをとらない。 今、そのベビーベッドの脇に、人影があった。アリエスの離宮に住まう人物のものではない。 もとより、彼女は人ですらなかった。 ライムグリーンの長い髪をした少女は、蜜色の瞳で泣きわめく赤ん坊をじっと見つめていた。 「ルルーシュ?どうしたの?」 マリアンヌが開け放された扉から姿を表した。 「あら、C.C.、来ていたの?」 もう、声をかけてくれれば良かったのに。 母とも慕う少女の来訪にマリアンヌは少しだけ拗ねた色を滲ませて頬を膨らませる。一児の母になったとは言え、生まれて十数年、共に過ごした保護者相手では威厳を保つことは難しい。 マリアンヌは部屋を横切り、泣き続けるルルーシュを抱き上げた。母親の腕の中、小さな赤ん坊は不思議そうな顔をした後、母の服を掴んで泣き止んだ。 「お前と皇帝の子か」 「ええ、そうよ。ルルーシュと言うの。」 マリアンヌはにこやかに笑いながらルルーシュをC.C.に渡す。C.C.は慣れた様子でルルーシュを受け取ったが、ルルーシュは途端、火が着いたように泣き出してしまう。 小さな子供故の敏感さで人ならぬ存在の異質さを嗅ぎ分けているのだろうか。 そう、C.C.はいずれルルーシュを拐かす魔女であった。 あらあら、と呟いて、マリアンヌはもう一度我が子を腕に取り戻す。 途端に鎮まるものだから、子供の現金さには呆れてしまう。 「ルルーシュか」 「えぇ。私には生まれた時に分かったわ。この子はルルーシュよ。愛おしい、私の子」 赤子をあやして唄うような声韻でマリアンヌはC.C.に断言した。 「小さいな」 「未熟児だったのよ。でも大丈夫」 私はあまり傍にいてあげられないけれど、貴女が守ってくれるでしょう? 「…こいつが役に立つようならな」 C.C.はわざと素気なく言い放った。 「ふふ、大丈夫よ、私の子ですもの。強い子になるわ。世界に負けない、優しい子に」 ねぇルルーシュ。 愛おしげに紡がれた名は、やがて、――― ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 20071128 ブラウザバックでお戻りください |