捩れた世界の、嘘

















 06: それは異世界へのを開ける呪文


 さぁ行こう、ルルーシュ。おまえの望みを叶えるために。






 生命活動の一切を止めた体を、C.C.は抱き留めた。血を流したから、だけではない躯の軽さに、C.C.は哀れなものを見るような視線で膝の上に載る顔を見る。血で濡れた髪はごわごわと固く、彼生来の、指通りの良い感触を伝えてはくれない。元々白い彼の顔は、今や紙を通り越して土気色になってしまっていた。

「ルルーシュ」
 少しだけ離れた場所には、やはり血を流すスザクが居た。だが、彼の血はまだ熱く流れている。
「ルルーシュから、離れろC.C.」
「ふん」
 知己の気安さと相入れない敵への攻撃性を秘めて激しい口調を隠そうともせずスザクが声を上げたが、C.C.は依然ルルーシュの傍らから動かない。
「気に入らないなら、お前がここへ来て振り払えば良いだろう。最も、それだけの力も既にないだろうがな」
 C.C.は淡々と言い放ち、殊更優しくルルーシュの血に汚れた頬を拭った。
「全く、ルルーシュはお前に甘いな」
「…早く殺せ」
「そんなにはなれたくないか、この魂と」
 C.C.の血に染まった白い指先がルルーシュの唇をなぞる。
「この世界の一秒の差が、次の世界では十日になるかもしれない。十年になるか、百年になるか。それは私にも解らない事だが」
 至極詰まらなさそうに呟く。
「ルルーシュも罪な事をする。拒むつもりなら、始めから撃たなければ良いものを」

 それでも撃ったのは、ルルーシュなりの独占欲だろう。
 C.C.は心中でそう断じる。

 消えない罪の記憶と、魂が消滅する時まで続く非業の若き死の運命。
 原初の罪からルルーシュに絡み付く茨は、ルルーシュの烙印を目指し、追い詰め、雁字搦めに縛り付ける。
―――彼の傍にある枢木スザクの運命と共に。

「そんなの、っ」
 噎せると共にどす黒い血を吐き出す。
「ルルーシュは、勝手過ぎるよ…」
 ルルーシュを追い掛けることはスザクの我が儘だが、いつもいつも、今一歩で手に入れることが叶わない。
 否、手に入れた時も確かにあるのだ。だが、決まってその直後に、ルルーシュは非業の死を遂げる。スザクの目の前で。
 だから、今生こそは、と。
「ルルーシュ…」

 スザクは力尽きたように転がった。背を丸め、苦しい息を吐き出す。
 そんなスザクを見て、C.C.が笑う。
「まぁそう言うな。かわいらしいじゃないか、好きな男と敵対する運命なんてこりごりだと、今回は余程堪えたんだろう」
 察してやるんだな。
 C.C.は笑うが、スザクにとっては笑い事ではないのだ。スザクはルルーシュと違い、ルルーシュに会わなければ記憶も戻らず、下手をすれば同じ界の時間軸には生まれ得ないかもしれない。そうなれば、来世一つの寿命分、スザクはルルーシュと会うことが出来ないのだ。
 冗談ではない!


 治まらないスザクの怒りを見て取ったのか、C.C.が仕方のない奴だ、と言わんばかりに溜息を吐いた。
「今回限りだ、お前も連れていってやる」
 ルルーシュを優しい手つきで地に下ろし、スザクの元へ歩く。ルルーシュの血に染まった手で、スザクの瞼を覆った。
「だからもう眠れ、またルルーシュと共に会おう」

 その声と共にスザクの苦しげな喘ぎと痙攣は治まり、しかし同時に呼吸も少しずつ小さく収束していった。





























 完全に絶えたのを知り、C.C.は手をどけた。スザクはまるで眠っているかのように目をつむったままだ。
 C.C.は拘束衣の裾をばさりとはためかせた。二人分の血の染みは既にない。


 直にここにも人が来る。
 カレンか、シュナイゼルか、特派か、或はアッシュフォードの小娘かもしれない。



 C.C.は目を閉じた。温かな光点が身の内に生まれる。


 そして、自身の深淵にある、内なる扉を開く。


 さあ行こうか、約束の地へ。





(彼 の いる 場所 が 僕 の 、)


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20071127





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