05: 世界は残酷なままだけど、少しだけ好きになれたのは ――――――小さな君のおかげだった。 ルルーシュ、ナナリー、こんにちは。手紙を書くのは三日ぶりです。最近、自分の筆まめさにびっくりしてる。 父さんが死んで、日本が無くなって早いものでもう二年も経ちました。ルルーシュ達と別れてからはもっと経っていますね。部屋から見える庭に、背の高いひまわりが咲きました。見るたびに、ルルーシュとナナリーを思い出すよ。君ったら、ひまわりの幹に生えてた刺にびっくりしてたね。僕はブリタニアのひまわりに刺がないことにびっくりしたけど。 先月、僕が13才になった事は手紙に書いたよね。僕、ここを出ようと思うんです。 父さんのせいで、この国の人がたくさん死んでしまって、父さんはもういないけれど、唯一の家族だった僕が、ブリタニアに保護されていて良いんだろうか。 誰に聞いても答えてはくれないだろうから、僕は自分で決めなくちゃいけないと思います。でもこれって僕が生きて来た中で、多分一番大きくて大切な事なんじゃないかって思う。 父さんは僕に、多分完璧を求めてた。でも僕は、一度も父の望み通りになったことはなかった。仕方ないよね、僕は僕だから。その代わりみたいに、僕は父さんの言うことには逆らわなかった。反抗期もなかったし。―――最初で最後の反抗は、したかも知れないけどね。 それはそれとして、僕は僕の身の振り方を考えてみたんだ。君は反対しそうだけど、軍に入ることに決めました。僕は馬鹿だから(この二年間でも改善されなかった位だからね!)償うにはそれくらいしか方法が思い浮かばないんだ。君が居たなら、馬鹿か君は、なんて言って止めてくれたかな。それとも、呆れて見捨てられてしまうんだろうか。 ともあれ、これからはあまりひんぱんに手紙を書けなくなると思います。ごめん。軍学校に入れるのは14才からなんだけど、僕は義務教育も途中で終わってしまっていたから、そこから始めなくてはいけないみたいなんだ。ブリタニア語は話すのは簡単だけど、読み書きは難しいんだな。君が日本に来てからも勉強してた、大変さが今になってわかったよ。でも頑張らなくちゃ。 それじゃあ、またいつか。 枢木ス 署名を入れる手が止まった。ペンを持たず便箋に添えた左手が白くなるほど力を篭めた。短く切り揃えられてしまっている爪が(獣が爪を失ったら終わりだと言うのに、)白くなるまで机がわりにしていたサイドボードのガラスの台に押し付ける。 だが、それも数瞬の間で、すぐに何事もなかったかのように二枚分の便箋を折り畳み、封筒に入れた。封緘を施し、―――がらんとした押し入れの片隅、ぽつんと置かれた紙製のフォルダーの中、無数に入っている封書の中に無造作に突っ込んだ。 宛名には、ルルーシュと、ナナリーと。それだけで切手さえない手紙は出す事も出来ない只の日記だ。 知っているのに(どこにいるのか、) 伝える事ができない(ただ、増えていく事で生きている時間を測っている) まるで無駄な紙の束(積もっていく、限りなく無意味な生命の垂れ流しが) それでも綴ってきたのはきっと。 君がいたから (簡単に捨てられなくなった、この世界を) ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 20071126 ブラウザバックでお戻りください |