V
話し掛けられて僕は固まった。あれ?プランツドールってしゃべるんだっけ!?
僕は猛烈な勢いで記憶を反芻する。プランツドールは主に貴族の愉しみの為に売買される。それはプランツドールがとても繊細で、それ自身の価値もさることながら衣食住にかかる金額が半端では済まないからだ。勿論、それを欲しがるかどうか、プランツの性格にもよるけれど。
しかし、財力があればプランツを売ってもらえるわけではないのだと。波長の適合の有無で、店主はプランツの売買を決める―――と言うのが僕の知るプランツドールの都市伝説だ。僕は初めてプランツを見たけれど、確かにお店にいた他のプランツはみんな目を閉じていた。
そんな埒もないことを考えている間も、彼は瞬きもせず僕を、いや正確には僕の手元を見ていた。ええーと、なんだっけ?
あぁ、
「砂糖菓子、を、もう一つ?」
紫のリボンを揺らして、こっくりと頷く小さな頭。
砂糖菓子は一週間に一度で良いって言ってたけど。
「まぁ良っか」
目覚めたばかりだから、お腹が空いているのかも知れない。僕はさっきより一回り小さめの砂糖細工を取り出した。うっすらと開いた口元まで運んでやると、彼はそれを口に含んで、今度は満足そうに笑った。僕はその笑顔を見て、言葉にならない喜びというやつを初めて感じた気がした。体が震える。むやみに駆け出したい。みんなに見せびらかしたい、今の笑顔を!そんな気持ちを持て余していた
が、一瞬後、彼の身体が傾いだ。
―――え!?
僕は慌てて彼の背中を支えた。先程まで開かれていた美しい紫眼は、今は潤み半ば閉じかかっている。
「…眠いの?」
問い掛けると、意味がわかっているのかいないのか、首がかくん、と折れて僕は慌ててしまった。
「ちょ、ちょっと待って!その服のままはまずいから!」
どうせ服は明日届く。けれど、さすがにそのふんわり膨らんだスカートだとか、頭の後ろに結ばれたリボンだとかは眠るにも邪魔だと思う。
でも、替えの服もないんだった…と僕は愕然とした。仕方ない、僕の服で我慢してもらうしか…、、そう覚悟を決めて、僕は彼の服を剥いでいった。
「ごめん、もうちょっとだけ起きててね」
寝転がった人間の服をぬがすのはやったことがないわけじゃないがやりにくいことは本当だし、寝ている彼の服をぬがすなんてまるで変態みたい、と意識し出すとやっぱり彼には起きていてもらわないといけなかった。
まずは頭のリボンを解き、次に靴を脱がせる。小さなサイズの靴を揃えておいて、次は首元のリボン。ラッピングを解いてる気分で楽しくなって来た。でも、それは背中にあるファスナーを下まで下ろした時までだった。そこで、僕の手はぴたりととまってしまった。だって、この下は素肌なんだよ!
いや、別にどんな身体がでてきたって驚かないよ、女性だったなんてオチがきたって華麗に擦り抜ける位の経験はある!でも。
全面的な信頼を滲ませてとろりとした彼の目に見つめられたまま服をぬがすのは、もの凄い苦行だ。別に疚しいことをしようとしてるわけじゃない。 でも、リボンがなくなって見えるようになったうなじとか首元のラインが繋がる先にある胸元とかも同じ色をした肌があるのだと思うと、何だか。
僕は口元を押さえた。頭に血が上るのがわかって、けれども僕は覚悟を決めた。
袖を抜いて、目を背けて僕のシャツを頭から被せた。僕のサイズだと、裾は彼の足首位までの長さになる筈で、でも失念していたのに気付いたのは肩幅だった。僕の半分くらいの肩幅しかない彼には僕のシャツは大きくて、衿ぐりがぎりぎり肩に引っ掛かるかかからないかくらい。右にずり落ちそうなシャツの衿ぐりから、彼の、白くて丸い肩が見えて、僕はどきりとしたけれど、見なかった振りでスカートを抜き、彼をベッドに寝かせた。
シーツは昨日替えたばかりだし、枕にタオルも敷いた。多分、大丈夫だろう。
「おやすみなさい」
僕が恐る恐る額を撫でて髪を梳くと、彼は笑って、眠りについた。
翌日、床に寝ていた僕が目を覚ますとなぜか毛布の中に彼がいて、その夜から僕は彼と一緒のベッドで眠ることになった。
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20080513
※通常のプランツは喋りません。原作とは些か異なっておりますがご了承ください。
お着替え編終了!
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