「だって、初めて見た時から欲しかったんだ」 「なにが」 「きれいないろの、め」 「や、やらないぞ!」 「わかってるよ。だから、ずっと傍にいる。…お前一人にナナリーを任せるのも、なんか不安だしな!」 「なんだと!」 「アハハ!」 暖房の排気音に、僅かに混じる水音。机の上には広げられたままのテキストと、飲みかけの紅茶。窓のカーテンは開け放されたまま、灰色に厚みを増した雲を映す。 明かりの点いていない薄暗い室内、ベッドの上には、女子高生に押し倒され、 くちづけられている、軍人の姿が一つ。 組み伏せられていた軍人が、漸く正気を取り戻したように瞬きを一つした。口腔内を蹂躙していた舌を捕らえ、逆に搦めとる。 「っ、」 意識が逸れて、力の抜けていた拘束から捕われていた手を自然に取り戻すと、片手をキスに夢中な相手の頭部へと沿え、一息に引き倒した。 「な」 「どういうつもりなの」 今日二回目の言葉。 けれど今度は逃がすつもりも、また逃げるつもりもなかった。 見下ろす強い視線に心が騒ぐ。が、それを被った冷静な仮面の下に押さえ付けてルルーシュは平然と語る。 「お前が、本当に笑ってないから」 「だから?」 「お前は、大人になったよ。そう思っていた。大人しくなったし、優しくなった。妙に頑固な所は相変わらずだが。でも、昔を知っている俺としてはな、嘘臭い笑いなんてすぐにわかるんだ。そんな風に笑われるのが我慢ならないんだ」 「勝手だね」 「あぁ、俺の勝手だ。それに、おそらく俺とお前は全く違う道を歩いている。性格からして正反対だったものな。けど、背中越しに泣いていることはわかるし、…お前だから、放っておけないんだ」 「嘘ばっかり。ルルーシュは、結局、最後はいつも、誰にだって優しいじゃないか」 「でもその優しさは、お前へのそれとは違うんだ」 「一番はナナリーだけど?」 「…そうだ、俺の最優先事項はナナリーだ、」 「じゃあ僕は二番目?」 抑揚のない声が問う。 「話は最後まで聞けよ。」 取り敢えずこの体勢は嫌だ、と覆いかぶさるスザクに合図を送る。スザクはすぐに手を離したが、ベッドに腰掛けたままであるからルルーシュはベッドから下りることは出来なかった。 仕方なくその場に座り直す。目線があった所で続けた。 「昔、約束したな。お前の力は俺が使ってやるって」 「…」 「お前があの時、何を考えてあんな事を言ったのかはしらないし、今も無理矢理聞きだそうとは思わない。だけどな。俺は、お前を信頼してる。あの時、俺達の為に何かをしてくれたのはお前だけだったから」 そこまで言ってルルーシュは視線をスザクから90度逸らした。 「だから、」 「だから?」 「こんな時ばかり返事をするな!」 「…ごめん」 心なしか肩を落としてうなだれるスザクに苦笑が漏れる。情けない、が。これはこれで良いシチュエーションではないか。 「だから、俺はお前に好意を持っている。…一度しか言わないぞ?ナナリーとは別種の好意だ」 「…それって僕の事、好きって事?」 「一度しか言わないと言っただろう!」 頬に血が集まってくるのがわかった。 「だから違う言葉で聞いてるんじゃないか」 「こういう時だけよく回る頭だな」 「え?ごめん?」 「訳がわかってない癖に簡単に謝るな。余計に腹が立つだろうが!」 「ルルーシュ!」 「わっ」 ルルーシュは背中にスプリングの軋む音を聞いた。 「なんなんだ突然!」 「ありがとう」 腹部にしがみつくスザクの肩は、僅かに揺れていた。 なんというか、母性本能を擽られる。 (ふわふわしてるし) 何となく、手を出して撫でてみたい気に駆られた。髪の毛なんて、ナナリーの髪を結う位しか触る機会はなかったし、近頃はその役目も、咲世子さんに任せて久しい。 そっと触れて、撫でてみた。時々くせっ毛を引っ張るとむずかるような反応を見せる。 犬みたいだなと思って調子にのっていると、不意に、スザクが顔を上げた。 「ねぇルルーシュ。お願いがあるんだけど」 にこり、と。裏なんて何もありません、という様な笑顔を浮かべてスザクは言う。と同時にスルリと不穏な右手が大腿を這った。 「抱いていい?」 天使のお願いには逆らえない! 「お前、分かってるよな?」 「何が?」 「こんな恰好でも、俺は男だぞ?」 「?当たり前じゃない」 「お前も男だが俺も男なんだ!」 「そんな事知ってるってば。昔一緒にお風呂だって入ったじゃないか」 変なルルーシュ。 そう言ってにこにこと笑いながらジャケットのベルトに手を掛けるスザクにルルーシュは考えることをやめた。 まぁいい。 今回は甘んじて受け入れてやるさ。 ニヤリと笑んだスザクに、目を閉じたルルーシュが気付く事はなかった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 20070430 攻める気満々でいたのに結局ほだされてしまうルルーシュ。 ブラウザバックでお戻りください |