「えー良いじゃないか。俺ルルーシュの顔とか好きだし!」
「お前が良くても僕の意思はどうなるんだ!」
「―…ルルーシュ、わかってるか?」
「何だよ」
「ナナリーとは結婚なんかできないんだぞ?」
「馬鹿にするな!それに、そんなのお前とだってそうじゃないか!!」
「あ、そうか」
「…っ、やっぱりお前なんか大嫌いだ!」








 閃いた翆緑に、意識が引きつけられた。一瞬の磁力を有するそれが突然近づいて来ても、何も反応出来なかった。寧ろ、反射的に目をつむってしまう。と同時に、首筋に当てられた、熱いてのひらの感触を自覚する。
 しかし、それ以上は何も起こらない。おそるおそる目を開けば、まつげが重なる程の至近に濃さを増した、翆緑があった。
「スザク、」
 そろそろとルルーシュが今にも触れそうな場所にある口を開く。緊張に掠れた遠慮がちな声は、酷く弱々しく二人の間に留まって、ルルーシュは羞恥で頭に血が上るのを感じた。
 遊ばれた。
 からかわれた。
 そんな言葉がぐるぐると心の中を飛び交った。けれど、スザクの手を振り払う事はルルーシュには出来なかった。
 以前のルルーシュなら払っていた。それが出来なくなったのは。
(恋、を)
 自覚したから、だ。
 触れられている、この手の温もりが惜しいからだ。
 離れてほしくないと思っている。浅ましい願いごと。
 望むのなら、使ってしまえば良い。C.C.の声が耳元にリフレインする。馬鹿な。

 スザクには使わないと、そう決めただろう!

 低く、呟きが落ちたのはその時だった。


「どうして避けないの」





 平淡な声音にルルーシュは背筋を震わせた。見れば、先ほどより色を濃くした一対のエバーグリーンが、じっとルルーシュを見ていた。
「どうしてって」
「僕の事、からかってるの」
「!」
「僕の前でそんな無防備な恰好で、あんな事して。僕の反応を見て楽しんでたの?」
「そんな事あるわけないだろ」
「じゃあなに?ルルーシュは女の子じゃないのに、こんな恰好してさ。」
 スザクの手が胸元に延びた。
「本物じゃないよね?」
「っ、たりまえだろう!」
「なんだ」
 本物でも良かったのに。
 静かな声で自嘲するように呟いた。手を引きながらルルーシュを立たせて腹部の辺りに額を押し付け俯いた。
「お前、何言って」
「言葉の通りだよ。ルルーシュが女の子だったら、絶対に僕のものにしてたのに」
 例え君が嫌がっても。浚って閉じ込めて。僕が守ってあげたかったのに。

「さっき、僕がどれ位焦ってたかわかる?ロイドさんや、赤の他人に、君を見せたくなかった。しかも、そんなかわいい恰好でさ。皆、君の事女の子だと思ったかもしれない。なのに君はそんな自分に無関心過ぎるよ」

「…そんな事、お前に言われる筋合いなんて、ない」
「…そうだね。そうかもしれない」


 僅か、震える声音に、混じる何か。それが何かを理性が判断する前にスザクが顔を上げた。


「ルルーシュ。そろそろ暗くなって来た。帰ろう、送っていくから」
 いつもの笑顔。
 誰が見ても、人の良さそうな、笑顔。
 でも、スザクは今、本当に笑っているわけではないのだ。それを思うと堪らなかった。


「外は寒いから、これ着て」
 スザクはベッドの脇に掛けられたコートを手にとってルルーシュの方に振り向いた。
 途端、スザクの胸と背中に伝わる衝撃。
「え?…ルルーシュ?」
 ルルーシュはスザクに身じろぎも赦さない、というように、膝頭でスザクの両脇を締めた。体を支えるために肘を付いた腕も戒める。
 ルルーシュ程度の体重であれば、スザクの力なら簡単に持ち上げられてしまうだろう。
 だから、
「!」
 噛み付くように唇を寄せた。




猟奇的犯行。



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20070426

乙女ルル。

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