「お前!自分が何をしたのかわかってるのか?!」
「何が?」
「お前、今僕にキ、キ、キ、」
「キス?」
「口に出すなー!!」
 ルルーシュは半泣きになりながら叫んだ。衝撃だ。母上にもナナリーにもシュナイゼルにも、ユーフェミアにだって触れられたことはなかったのに!
「だって、ブリタニアではキスはあいさつなんだろ?」
「あいさつのキスは頬だ!口にするのは夫婦だけだ!」
「…」
 あはは、と奴は笑った。
「まぁ、良いじゃん済んだことは仕方ないだろ」
「謝れー!」
「…ごめん」









「あの…ルルーシュ?」
 恐る恐るスザクが振り返る。若葉の緑がどこと無く怯えを孕んでいる。
「お前は俺に、何か言いたいことがあるんじゃないか?」
「…その恰好、凄い似合ってるけど、どうしたの?」
 問答無用で頬を抓り上げた。スザクは甘んじて受ける。ルルーシュが怒っていることがわかっているからか。少しは懸命になったな、よかったよかった。
「俺がここに来た理由は!お前が学校に来ないから課題を持ってきたのが一つ!もうひとつは!」
 抓っていた頬を思いきり引き、左右の手で頬をパン、と挟み込み、間近で凄む。
「お前が連絡をよこさないから皆心配になったんだ!わかったか!」
「ルルーシュ、痛い」
「うるさい、思い知れ!」
 腕を組んでそっぽを向く。嘘は言っていない。ナナリーもシャーリーも、口には出さないがリヴァルだって、一週間も顔を出さないスザクを気にしていた。スザクの事だ、どうせ自分の事をそんな風に気にかけられているのに気付いていないのだろうとは思う。だが、スザクの動向を尋ねられても答えられない虚しさをこいつは知っているのだろうか。
(多分思ってもみないんだろうが)

「ルルーシュも心配してくれたの?」
「しないはずがないだろう?」
「そっか」
 へら、と笑う。
「全く、毎日毎日、どいつもこいつも俺に尋ねるんだ。答えられない俺の身にもなってみろ……笑うな!」
「いや、あはは、ごめん。」
 スザクは本当に嬉しそうに笑った。普段の控え目な笑みではなく。
「嬉しい、って言ったら不謹慎かな?誰か、ううん、ルルーシュが心配してくれるって、なんか嬉しいんだ。」
 そういいながら目元に涙を滲ませるものだから、今度はルルーシュの方が慌ててしまう。
「こんな所で泣くなよばか、」
「うん、ごめん」
 ルルーシュはジャケットのポケットに律義に入れ換えていたハンカチをスザクに手渡した。スザクはありがとう、と言いながら目尻を拭った。


 少し落ち着いて、ルルーシュは気がついた。自分達の異様さに、である。女子高生が、泣いている軍人を慰めている。下世話な想像を巡らせる材料は十分だ。
「スザク、俺はもう帰るから」
「え?」
「これ、」
 鞄からファイルを取り出す。1センチはあるそれの中には、四教科の課題が含まれている。それを見たスザクの顔が見る間に蒼白になっていく。
「る、ルルーシュ!」
 ファイルを差し出した右手をがしりと掴まれる。
「な、」
「ちょっと寄って行かない?」
 スザクは引き攣った笑いを浮かべている。
「ふん、お前の考えなんてお見通しだぞ。課題は手伝ってはやらないからな」
「やだな、そんなのじゃないよ、…そう、御礼!御礼をさせてよ!飲み物位しか出せないけど!」
 取られた手首が熱かった。大きな掌。そこから感じる人の体温に、自分の体が大分冷えていたことを知る。認識した途端、ぞくりと背筋に走る悪寒に、小さくくしゃみが出た。
「ほら、こんな寒いのにそんなスカートで長時間外に居るからだよ」
「…じゃあ、一杯だけ」
「うん!」
 だから、そんな満面の笑みを浮かべるのはやめろ!



心臓にわるい!


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20070426

犬ッコロみたいなスザク。



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