兄さんに影武者が立てられた。イレブンの、女性だ。なんでも、ブラックリベリオン以前は、アッシュフォードに雇われ、ナナリー皇女の世話係をしていたらしい。当然、兄さんともずっと一緒に暮らしていた事になる。 兄さんを良く知っている、と言う点でも適任だと思う。 兄さんは中華連邦に行く前、僕に彼女のサポートを頼んでいった。彼女の知る自分とお前の知る自分は違う、フォローを頼む、と。 僕は兄さんに頼ってもらえる嬉しさ半分と、置いていかれる淋しさ半分で兄さんの言葉に頷いた。 本当は僕も着いて行きたかった。中華連邦には、つい先頃エリア11から姿を消したあの男、枢木スザクも居る筈だ。 咲世子と言う女性が演じる兄さんは、やけに女性に優しいような気がする。有り体に言えばフェミニスト、でも時々、普通の男子高校生は、兄さんだってそんな事はしない!と言うような態度を見かける時がある。泣いているシャーリーにハンカチを差し出すなんて言うのは一端に過ぎない。 体調が悪いと言えば額で体温を計り(これは僕もやってもらったから仕方ないけど、あれは家族特典だと思う)、重い荷物は代わりに持ってあげる(自分だって非力なのに。まぁ咲世子さんがどうかは知らないけれど)。デートの誘いも断らない(ここ一年の兄さんは女性の影なんかちらつかせたことはなかったのに)。 どうしてそんなに女性に優しくするんですか、と一度聞いてみた。「ルルーシュ様は、普段この様にナナリー様に接していましたので」 咲世子の返答はこうだった。詰まり、だ。さりげなく差し出すハンカチも額で計る体温も重い荷物を持つのも女の子からの誘いを断らないのも、兄さんが妹のナナリーにしていた事だと言うことだ。 …。 とにかく、人には優しい。特に、女子供といった弱者に対してそれは顕著な様だった。だけど、本気の想いには決して答えなかった―――答えを避けていた。 その頃には情けないことだけれど、この咲世子という影武者が見たと言う、妹に接する兄さん像に大分まいらされていたから、聞き方は幾分ぞんざいになってしまったけれど、そんな反省を吹っ飛ばすような問題発言―――否、あの夜から予測していた事だ、事実は違えども―――を得た。 なんと質問したのかは忘れてしまった。ただ、女の子に優しくし過ぎな事を咎めて、なのに何故、本気の女性に告白される事態を避けるのか。…それは勿論、僕だって、兄さんがその辺の女の子と付き合うとは思えないけど。 咲世子の返答はこうだった。 「ルルーシュ様は、女性には興味がない方ですから」 「…は?」 そんな報告は一切受けていない。けれど僕は、数日前のあの夜の事を思い出していた。 「枢木スザク、ですか」 「まぁ、うふふ。ご存知でいらっしゃいましたか。ルルーシュ様はスザクさんがお好きで、事あるごとにお夕食にお誘いになって、スザクさんはそのままお泊りになることもしばしばでした。心配性で、いつもスザクさんを気遣ってらして」 あのルルーシュ様の様子はとても嘘には思えませんでしたわ。スザクさんも、頬を染めていらっしゃって本当におかわいらしい様子で…とうっとりした様子で話し始めたので僕はぎょっとした。 どうやら彼女の中では兄さんが゛枢木スザクを女の様に喘がせている構図になっているらしい。僕が見た姿は正反対だったのだけれど、それを今此処で話すわけにもいかない。 今此処でわかったことはつまり、彼女は兄さんがホモセクシュアルであると思っている、らしいことだ。 …多少疚しいものを抱える身としては、この話題は聞かなかった事にしようと僕は思った。 それはともかく、兄さんの顔と声で、それ以上兄さんの人間性を疑われるような事をするのはやめてほしいな…! と、僕は尚更この影武者が苦手になった。 ―――早く帰って来てよ、兄さん…(僕はらしくもなく星に願った) (7,8 影武者と僕) ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 20080622 ブラウザバックでお戻りください |