どうしよう。

(ルルーシュが)

 かわいい。

 いや、かわいいのはいつもの事で、スザクの狭量な独占欲を無自覚に煽ってくれる稀有な存在なのだが。

(うれしい、けど。)
(申し訳ない)
 相反する気持ちが胸に渦巻く。自分のつまらないプライド(女の子としての、である)(ルルーシュの男のプライドがどうであるのかはスザクの知るところではない)一つでここまで落ち込んでくれるのを見るのは。


 真摯に慰めようとしてくれるルルーシュに笑い顔を見られまいと、スザクは俯いた。肩が震えてしまっていないだろうか(しつこいようだが、笑いで、である)。

「おい、スザク?」
「ルルーシュ!」
 スザクの様子を伺おうとしたルルーシュを、スザクはそれよりすばやく立ち上がりベッドに押し倒した。

 どさりと二人分の重量がかかった重い音を立ててルルーシュの絹の髪がシーツの波間に散らばる。
「った!何してる、あぶな…っ」
「ルルーシュ大好きだ!」
 顔を上げようとしたルルーシュの頭を胸に抱え込んで、どうやったらこの溢れんばかりの愛しさを伝えられるだろう、とスザクは沸騰した頭で悩んだ。この触れ合った場所から伝われば良い。この醜い爪先からだって、ルルーシュにこの気持ちが伝わるのならもう嫌いになったりはしないのに。

「ルルーシュ、ルルーシュ、」

 まだ顔を赤くしたり青くしたり、忙しく明滅させているルルーシュの顔を覗き込む。その頬に唐突に生まれた水滴に、あれ、とスザクは訝しんだ。ほぼ同時にルルーシュが澄んだ紫眼を見張る。
「スザク…」
「あれ?ルルーシュ、泣いてるの?」
「バカ、泣いてるのは俺じゃないだろ」
 ぐい、と無造作に、けれど痛くない程度に頬を拭われて初めて濡れた感触に気付く。見張られた両の紫眼に涙を流す自分が映り込み、スザクはえ、と声を上げて身を起こした。ルルーシュは顔を歪めてそんなスザクを見遣る。
「―――っあは、びっくりした」
 スザクは意識して笑みの形に表情を動かした。
昨夜から滅多にない事続きで、スザクの中のなにかが飽和してしまったらしい。
「びっくりしたのはこっちだ。」
 ルルーシュが身を起こそうとするのを遮り、スザクは再び上体を倒した。ボディソープの優しい甘い香が体温とともにスザクの鼻先を擽る。
「ねえ、ルルーシュ。」
 ルルーシュに触れるとき、いつだって思うのは、自分の存在を彼の記憶に刷り込みたいという事だ。
 気付いているのだろうか。心も、身体も、スザクの持つ全てがルルーシュの為にある事を。
 今無意識に流れた涙は。

「何だ?」

 あやすように頭を撫でられた。


 






 あぁ。


 全身が君を好きだと叫んでる。











(君はわかっているのかい)





それともわざと知らないふり?





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20071026



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