ぶすくれるスザクの顔を正面に見ながらルルーシュは上機嫌だった。スザクとの攻防は殆どの場合彼女に軍配が上がる。仮にも男である自分が、少女に守られる事は、彼女が騎士となった今目をつむろう、それが彼女の望みなら。 だが、純粋に彼女との争いになった時、彼女に負けてしまうのは業腹だ。自分にだって男としてのプライドは(維持できているかは限りなく怪しいが)あるのだから。 スザクは爪磨きをルルーシュに奪われてからというもの、むすりと黙り込んで両手は椅子の背もたれと背中に挟み込んでしまい、頑なにルルーシュに見せようとしなかった。ルルーシュはにこにこと微笑みながら、スザクの肩から上腕を辿って腕を引き寄せようとする。 が。 「……っ、諦めて手を寄越せ!」 「嫌だ」 力を込めて腕を引き寄せようとするが、スザクの腕はぴくりとも動かない。 「何で!」 「嫌だから」 スザクの強情さは、ルルーシュが一番良く知っていた。昔からそうだった。 スザクは友人だ。軍人になどならないで欲しい、そう何度も口にした。だがスザクは、それはできないよ、と笑って言うだけだった。結局スザクは軍学校に入ったし、学校を終えてしまえばその類い稀な才能は方々に望まれる事になった。 だがスザクは、女の子で、ルルーシュのたった一人の心許した幼馴染みなのだ。心配をするのは当然だ。 結局、自分の手の届く場所に居てもらうために、ルルーシュはスザクを自分の騎士にすることを余儀なくされた。―――スザクの願い通りに。 最後はスザクの望みを叶えてしまう。人との付き合いを余り好まないルルーシュにとって、一度懐に入れた人間はそれだけで特別な存在になってしまうのだ。 ルルーシュは鏡だ。基本的にお人好し。策略や策謀が絡まない限り、好意には好意を、悪意には悪意を、敵意には敵意をもって返礼と為す。まるで鏡面のよう。 その中でもスザクは特異な人間と言える。環境故、と言える部分も多いのだろう。スザクは存在全てでルルーシュを求めてくる。自分よりもルルーシュを優先するその執着に、怖気づく事も過去にはあった。しかし、スザクの為にも彼女と決別しようとした時、ルルーシュ自身もスザクの傍に居たい、大切にしたい、守りたいと願っている事に気付いたのだ。 だから。 「ならば命令だ、枢木スザク」 びくりとスザクが肩を震わせる。 「その手を隠すことは許さない」 ルルーシュは、スザクを守るために手段を選ばないことを決めたのだ。 「君は卑怯だっ………」 「今更だろう?」 ルルーシュは笑う。 何よりも守りたいのは彼女自身だ。 権力行使も辞さないなんて、我ながら溺れすぎている。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 20071021 ブラウザバックでお戻りください |