「ルルーシュ、」 「スザク?」 ノックの後続いた呼びかけに、なんだ、さっき部屋から出て行ったばかりじゃないか、と自室に備え付けのシャワーを浴びたルルーシュは髪を拭いながら返事をした。 「あ、やっぱり、」 「だから何だ」 「ううん、お風呂から出た所だったなって。」 我ながら凄い精度、と自身の勘を褒めるスザクを見て、だから何なんだとルルーシュは先を促す。あまり気が長くない事を知っているルルーシュの騎士の片割れは、ちょっとごめんね、と頭に添えられたルルーシュの手を取った。 「ああ、だよね」 「だから、」 なんなんだと今度こそ怒鳴ろうとしたルルーシュを制してスザクは言った。 「ルルーシュ、爪、噛んだだろ」 幼い頃からの癖は、癇性に准えて時々現れる。 「あんなにやめてって言ったのに」 「…お前に関係ないだろう」 「関係なくなんかないよ」 スザクは懲りずに言い放つ。唇を尖らせた。 「昨日、挿れる前に中、解しただろ?爪が痛かったん」 だけど、と皆まで言わせぬうちにルルーシュはうっわぁぁぁぁぁ!と叫んだ。 「お、おお、お前は!デリカシーと言うものを少しは理解しろ!」 「やだな、今更だろ、僕と君の間柄で」 スザクはにこやかに笑った。 誰だ、日本人は謙虚で慎み深い等と迷信を言い始めた人間は! ばくばくと、走った後の様に波打ち痛む心臓を押さえ、ルルーシュは半ば涙目になった。 枢木スザクは、名誉ブリタニア人である。現在はエリア11と名を変えた、小さな島国から捧げられた人質だった。 産出の限られる新資源、サクラダイトの世界流通分の七割を占める超先進技術国家、日本。だが、ブリタニアの保有する圧倒的な兵力と人的資源には到底かなわず、日本政府は無用な犠牲者を出す前に、開戦から一ヶ月という短さで降伏した。もともと、サクラダイト以外の資源は持たない島国である、世界は降伏を決した当時の首相に概ね好意的な視線を向けた。 そしてブリタニアは、かつてない譲歩案を呑んだ。人質と、八割のサクラダイト産出権をブリタニアに委譲する見返に日本は衛星国家に留まること、と。 サクラダイトの精製には非常に高度な技術が必要とされる。現在の所、その技術を確立しているのは日本とEU、この二つの勢力のみであるが、EUはブリタニア、中華連邦と世界を三分する覇権争いの雄だ。ブリタニアに手を貸すことはないと思われた。 既に両手の数に等しい数の植民エリアを有していたブリタニアは、国名を奪われた人間が、戦争に負けた国の内政が、どれほど乱れるかを熟知している。 結果としていえば、ブリタニアはこの提案を呑んだ。当時、EUは最大のサクラダイト産出国であった日本をブリタニアが手に入れた事実に警戒を厳にしていた所だった。いくら強力な兵器を保持しているとは言え、動力がなければ唯の鉄屑に過ぎないのだ。 2010a.t.b、条約締結の席に連れて来られた人質は、当時の首相枢木ゲンブが一子、枢木スザク。日本皇家の傍系とは言え、彼の家の当時の権勢を見れば、人質としての価値は妥当な所だろうと思われた。 枢木スザクは当時10歳。まだまだ教育を必要とする子供である。 生活の世話、教育を受けさせる設備が必要であった。そんな故もあり、スザクの後見の役は、同じ年齢の皇子がいるヴィ家に一任されることになる。 ―――それから9年、一緒に過ごして来た。 「爪ヤスリ持ってきたんだ」 スザクはにっこりと笑ってルルーシュの目前で跪いた。 純白の騎士服、タイトなミニスカートの裾から健康的に焼け、適度に筋力のついた大腿が覗き、ルルーシュは目を反らした。 「御腕に触れることを許して頂けますか」 悪戯っぽい口調で見上げる翡翠に敢えて目を合わせることをせず、ルルーシュは頷いた。 「許そう」 オ オ カ ミ が 来 た よ ! ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 20071025 ブラウザバックでお戻りください |