800字でルルーシュを絶望させる(1)










[我がいとしき亡月の王]



「君が嫌いだ―――僕の前から消えてくれないか」

 冷たい光芒を宿した翡翠に射抜かれる。滅多になく細められた目は、幼く見られがちなパーツの大きさに相俟って酷薄な印象を与える。
「いや、違うね。僕が君の前から消えればいいのか」
 零度の無表情に貼付けた笑みは一目で上っ面と解る代物で、隠す気のない本気の色に、あぁ彼は自分を切り捨てたのだと―――捨てられる理由等幾らでもこの身は備えている―――漠然と悟る。振り払われた右手が、ひりひりと痛んだ。
 今日彼は、朝から人と目を合わせようとしなかった。リヴァルともシャーリーとも、勿論一週間ぶりに学校に来たルルーシュにさえも。そんなスザクに友人達も敢えて話しかけようとはせず、スザクも授業が終わると真っ先に教室を出てしまうものだから、ルルーシュに追いつける筈もない。

 大切に抱え込んだ玻璃細工の思い出は、ふと力を込めれば渇いた音をたて容易くその形を失うとルルーシュは知っていた。故に今まで、支えたい手を縮こめ無理矢理身に押し付けて堪えていた。壊す時は、彼の手で。自らの内に遺る最後の美しく柔いものを彼に否定されるまでは、せめて己の手で壊すことはすまい、と。
 大切に抱えたそれも、既に用を為さない―――否、始めから意味などなかったのだ。己一人が後生大事に守っていたそれは、只のガラクタなのだから。
 意図しない笑みがルルーシュの頬に浮かぶ。生徒会室の外、漏れ入る生徒の立てる喧騒に、内省に陥っていたルルーシュは現実を認めた。

「そうか」
「うん、」
 じゃあ、ね。

 スザクが、存在を拒絶するようにルルーシュに背を向けた。ルルーシュはスザクを引き止める言葉を既に持たず、又その気力もなかった。

 ルルーシュが背にした光を漏らす扉を、スザクが開く。
「会長、もう勘弁してください!」
 ルルーシュが唾棄した扉の外にスザクが還っていく。
「あんたが先に音を上げてどうすんのよスザク!」
 ルルーシュからは既に見る事が叶わない背中は僅かに震えていた。
「だってルルーシュ、絶対本気にしてますよあれ!罰ゲームは十分果たしたでしょう!だから、」
 わななくように震えた背中から、ごめんなさい、と言う声がルルーシュに届くより僅かに早く――
「―――っ会長!!!?」

 ルルーシュは扉に向かって走った。

 
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 20071017


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