庭に響く銃声


ロロとルルーシュ。14話から捏造。
全部知ってたロロの想像。死にネタです。
















(兄さん…)
 下半身を失い、最早鉄屑同然のヴィンセントを降り、僕は神殿の深部を目指した。この地下神殿で育った僕にとって、神殿内部は庭のようなものだったから。


 知ってたんだ。兄さんが、僕のことを許していないこと。
 兄さんをだまして、兄さんのたった一人の大事な妹とすりかわっていた僕を憎んでるって。
 誰よりも大切なナナリーを奪われたことにも気付かず、僕を大切にしていて、そのことに兄さんは罪の意識を感じていた。
 兄さんは、本当は何も悪くない。
 兄さんが感じている罪悪感は、兄さんの優しさと弱さだ。
 兄さんの中の優しい部分は、妹を忘れてしまっていた自分を責めて、だましていた僕を憎んだ。
 だけど弱い部分は、その憎しみを人に直接ぶつけさせない。返される憎しみが怖いから、兄さんは人を責めない。表立って、僕を責めない。だから、僕に気づかれないように、ヴィンセントに爆薬を積ませた。自爆装置の制御を奪った。何も悟らせないうちに、僕を殺そうと。
 人を責めるより、自分を責める方が、本当はとっても楽なんだよ。
 兄さんは、逃げてる。
 本当は、イケブクロで、一瞬で済んだんだ。
 V.V.を殺せ、って。一言、そうギアスをかければ、僕は兄さんが自爆を命じるより先に、僕自身の意思で、スイッチを押したと思う。兄さんは、シャーリーさんを殺した僕を憎んで憎んで、ついに僕を殺す時を知った。弔いのため。それなら躊躇せず、最善の方法を採るべきだった。スイッチを押す役目を自分に課したのは、シャーリーさんへの弔いでしょう。そしてそれが、兄さんの優しさだ。

 兄さんは、ギアスを得るべきじゃなかった。

 ギアスの力は、兄さんを傷つけ、大切なものを奪うだけだ。


(そして、僕も)





 V.V.は、地下で息絶えていた。不死身の肉体だけれど、蘇生する気配もない。いずれ、兄さんが見つけて封印するか、―――弔うだろう。

 







 黄昏の間で、対峙する、父と息子。
 兄さんが、銃を取り出す。
 お前とV.V.が、ギアスの根源か、と。
 皇帝はうっそりと笑った。とても遠いのに、なぜか口元を歪め、目を細めたのが分かった。
 兄さんの指に力がこもった。

 僕は走り出した。羽ばたく紅い鳥。心臓が、不規則な鼓動を打つ。痛みに手足が萎える。構わない。
 僕は兄さんの前に出た。
「恐れながら申し上げます。この場はお引きください」
「なぜだ」
「…陛下とルルーシュならば、相対するに相応しい地がほかにお有りになる筈です」
「…ふ」
 兄さんの父親は笑った。
「まったく、我が不肖の息子の周りには、いい眼をした人間が集まるものだ…私に怖じないお前に免じてこの場は私が引いてやろう」
「ありがたきお言葉」
 
 僕は、どくん、どくん、と鼓動の鳴る音に耳を澄ませていた。
 今までで、一番長く、ギアスを行使している。
 けれど、もう、
「…兄さん」
 僕は皇帝陛下の背中が黄昏に溶けるように消えたことを確認し、振り返った。
 兄さんは、ひどく険しい顔で、僕を見ていた。
 前に突き出された、兄さんの手の中の銃が、僕が兄さんに近付くのを拒むように向けられている。構わず、兄さんに口付けた。これで、シャーリーさんと同じだ。
「……にいさん」
 どくん、と一際強い拍動が、僕の胸を叩いた。
 ごめんね、兄さん。知らないふりは、もう、出来ない、から。
 同時に、大きな音が神殿に谺し、灼熱の塊が、僕の胸を貫いた。

(そして僕も)
(兄さんを傷付けて逝く)
(消えない傷を)
(贖罪の為に)
(兄さんに刻みつけて)

 憎しみの記憶でもいい。
 僕にくれるものなら、殺意でも憎悪でも、僕は嬉しいんだから。



さいごにかんじたのは、あなたのあたたかなひとしずく



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20080713



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