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ルルーシュはため息をつきました。
今日だけで何度目のため息なのか、数えるのも嫌になるくらいだったので、自分の幸せがいくつ逃げてしまったのか、ルルーシュにはもうわかりません。
舞踏会から三日が経っていました。結局あの夜、義母達は帰っては来なかったので、ルルーシュは明け方にベッドに入りましたが、舞踏会という慣れない場所に緊張してしまったのか、奇妙な胸のさざめきに、眠ることが出来ませんでした。
いえ、本当はわかっているのです。
「何故名前を聞いておかなかったんだ」
ルルーシュはあの翡翠の瞳が忘れられませんでした。緊張に揺れる、それでも柔和な翠緑は、皇子の氷のような瞳に見詰められ強張ったルルーシュの心を解きほぐしてくれたのです。
自分の為に、この国の皇子に盾突かせてしまったあの人、無事だろうか、とルルーシュは気を揉んでしまっているのでした。
幸にも、舞踏会で皇子と踊っていた娘の正体は、世間どころか義母や義妹達にもばれなかったようで、ルルーシュは内心不審に思いながらもいつも通りの生活を送っていました。
所が、いつものように掃除をして、義母に文句を付けられている最中の事です。
「アナタ、顔が赤いわよ」
熱があるのではなくて?
珍しく義母がルルーシュに言いました。
そういえば、ここ数日、身体が重い気がします。ため息も、てっきり気掛かりがあるせいかと思っていましたが、もしかすると体調が悪化したせいだったのかもしれません。
「うつされたらかなわないわ。今日はもうおやすみなさい」
午後の早い時間だと言うのに、ルルーシュは部屋に送り返されてしまいました。
義母達の夕食の支度や洗濯物が心配でしたが、部屋に帰り服を緩めベッドに入ると、限界だったのか、ルルーシュはすぐに眠ってしまいました。
「倒れたのか」
スザクが死んだように眠るルルーシュを見守っていると、魔女が現れ声をかけました。
(失敗しました。三日前に身体を冷やしてしまったみたいで)
「お前がいながら何をしていたんだ」
(…僕にだって、悩む時間位くれたって良いでしょう)
「それで大切な物を損なってしまっていてはざまぁないな」
(…わかっています!)
「罰として、ルルーシュの看病を命じる。しっかり世話しろよ」
どうせあの義母親達は、あのドレスではここまでは来れないだろうからな。
そう呟きながら腕を一振りしようとする魔女の姿に、慌ててスザクはベッドから飛び降りました。
スザクの茶色い小さな身体が地面に接触した途端、光が溢れ、鼠は再び人間の姿になっていました。
「いきなり過ぎます」
「ふん、時は待ってくれないぞ。」
魔女は一度視線を逸らし、もう一度、スザクと視線を合わせました。
C.C.は空中に浮かんでいるので、目線はスザクと同じ高さです。
魔女の金色の瞳がじっとスザクの翠緑に合わせられます。
「シュナイゼルがルルーシュを探している」
「‥」
「ルルーシュが置いて来たガラスの靴が合う娘を探しているんだ。あと二日のうちにはこの家にも兵と遣いの者が訪れるだろう。ルルーシュが寝込んだのは逆に僥倖だったかも知れんな。男だと思われている病人など、試す価値もないだろう」
「つまり、あと二日はルルーシュを外に出すな、と。」
「しっかり守れよ」
魔女はスザクの頭を一度叩くと、そのまま姿を消しました。
「ルルーシュ‥」
鼠の姿のままでは出来なかった事が、今は容易に叶います。スザクはそっと毛布をルルーシュの肩口まで引き上げました。
ルルーシュの役に立てる。
スザクは意を決して跳ね戸を開け、階下に降りて行きました。
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200706XX
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