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スザクは焦っていました。
そろそろ十二時の鐘が鳴り始めてしまいます。
王宮には大きな時計台があります。スザクの住むルルーシュの家からも見ることが出来るそれを、これ程近くで見上げたことはいまだかつてありませんでした。鐘の音はスザクが生まれるより昔から鳴り続けていたに違いありません。ずっとずっと長い間、この荘厳な王宮と国の中心に在り続けたこの時計に、けれどもスザクは臆する事はありませんでした。
むしろ、大きな世界を高い目線で見ることが出来るという事に高揚を感じていたのです。
それは、ルルーシュと同じ世界に立っている事に外ならないのですから。
けれど、次第に時計台の長い針が短い針に近づくにつれて、スザクの中に心配が募ります。
まさか、ルルーシュは王宮で暮らすことを望んだのでしょうか。
それは、スザクにとって何よりの絶望ではありました。が、懸念はそれだけではありません。スザクの脳裏に、魔女の言葉が蘇ります。
―――ルルーシュのドレスの魔法も、12時の鐘と共に解ける。
5分前になっても未だ戻らないルルーシュに、スザクの心配は最高潮に達し、スザクはルルーシュを迎えに行くことにしました。
幸い、広間の手前のホールまで従者は立入を許されていましたので、広間に入るには出入りの門扉を突破すれば良いだけです。
スザクはホールまでやってきました。会場内の音楽が、広間の外にまで聞こえてきます。
広間に入ろうとすると、出入口を守る衛士が、スザクを止めました。
「待て!」
「貴様、従者であろう!入室は許されてはいないぞ!」
厳めしい顔をした二人の衛士が、手にした槍を突き出します。
スザクは少し困った風に笑って言いました。
「ええと、あの。お嬢様が馬車にお忘れ物をなさってしまったようで」
「忘れ物とはなんだ」
「その、お薬なんですが、お嬢様は心臓の持病をお持ちで」
スザクは、ルルーシュのズボンの中から見つけた胃薬を出して、衛士に見せました。
「む。それなら仕方がないな!」
通れ!とオレンジの瞳の衛士は槍を下げました。
スザクはありがとうございます、と言って広間に入りました。途端目に映る色、色、色!ルルーシュも同じように驚いた事など知らないスザクは、けれどその夥しい色彩の氾濫の中から、たった一色を瞬時に見つけだします。
広間の中央で、皆から遠巻きに、皇子様に迫られている、華奢な背中、真っ青なドレス。
スザクはそれを見た瞬間、それまで浮かべていた気の弱そうな笑みを消しました。臆する事なく進み出、ルルーシュの腕を掴む王子の手を叩き落とします。
「お嬢様は、門限がお過ぎになっておられます。今日の所はこれで」
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200706XX
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