Y
時間は少々遡ります。
ルルーシュが部屋から馬車の中に移動する間、実は僅かの時間が経過していました。慌てているルルーシュには、わからないほどの時間です。その間に、鼠のスザクには信じられない僥倖が起きていました。
スザクは焦りました。ルルーシュが目の前で着ているものを脱ぎ捨てていく事にではありません。今まで何度となくルルーシュの着替えを見ていたスザクは、今更動じることはありませんでした。ルルーシュにとって、自分は話すことも出来ない矮少な生き物なのです。そんな事はよくわかっていました。
ですから、そんなシーンに唐突に現れたC.C.にスザクはとてもびっくりし、また憤慨しました。けれど、所詮は言葉の話せない小さな鼠。魔女とルルーシュの会話に加わることは出来ませんでした。
参加することが出来たのは、ルルーシュが馬車に乗せられる直前の数分の事です。
けれどそれは、鼠のスザクにとって世界すらも変えてしまう出来事の序章となる数分でした。
「おい鼠」
(は?)
「お前だ、お前」
(…)
魔女は鼠とも話す事が出来るのかとスザクが驚いていると、C.C.がスザクを手の平に乗せ、返事をしろと恫喝しました。
(何ですか。)
「お前、ルルーシュが好きだろう?」
(何故そんな事を貴女に言わなければならないんです)
「小憎らしい奴だな。せっかくお前にチャンスをやろうと言っているんだ、素直に喜べ」
(…チャンス?)
スザクには何がなんだかわかりません。これでも、ルルーシュが皇子の従姉妹であった事に軽いショックをうけていたのです。
「お前を御者にしてやる。わかるか?御者。つまり、人間だ」
(僕が?人間に?)
「ああ、そうだ。私は義理堅いからな、ルルーシュを幸せにするには努力をいとわん。ルルーシュの従兄弟の皇子は、あわよくばルルーシュを王妃にと望んでいる。だが、もしルルーシュがそれを望まないのであれば、お前が連れ出すんだ。」
(僕が?)
「もしそこで、ルルーシュと思いが通じ合ったなら、お前を本当の人間にしてやろう」
「お前を御者にする魔法も、ルルーシュのドレスの魔法も、12時の鐘と共に解ける。あぁ、ルルーシュの服を持っていけよ。どう転んでも私は気にしないが、ルルーシュが辱められるのは私の望むところではない」
にやりと笑うC.C.が腕を振ろうとするので、スザクは慌てて、脱ぎ捨ててあったルルーシュのシャツとズボンを小さな手で握りしめました。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
200706XX
ブラウザバックでお戻りください