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王宮につくと、ルルーシュはC.C.に渡された招待状を見せ、舞踏会の行われている広間に入りました。
途端、飛び込むいろ、いろ、いろ!
年頃の(中には幼女や母親も混じって)少女達は美を争うように、絢爛な衣装を纏っています。男性は、数えるほどしかいません。王と、その傍らに佇む衛士位の物です。
ルルーシュは、真っ青なドレスを纏っていました。短い黒髪は僅かにアップされ、耳には小さなイヤリングが輝きます。足元は、なんとガラスでできた靴でした!普段は踵の低い革靴を履いているルルーシュに、これは中々の試練でもありました。
ルルーシュは壁際に寄りました。ルルーシュは別に、皇子に会いたいわけでも、王族に加わりたいわけでもありませんでした。ルルーシュは、義母との折り合いこそよくありませんでしたが、義妹達は可愛いし、なによりあの家が大好きだったのです。離れるつもりは毛頭ありませんでした。
やがて、階段の上に据えられた木製の大きな扉が開き、今夜の主役が現れました。シュナイゼル皇子様のお出ましです。
シュナイゼルはまず、玉座に座る父母に挨拶を済ませました。
そこから離れると、周囲に少女が群がります。シュナイゼル皇子は背の高いお方でしたので、少女達より頭一つ分飛び抜けて見えました。
そのまま何とは無しにルルーシュが観察していますと、シュナイゼル皇子は宙空に一瞬視線を投げ、そしてルルーシュに気付いたかのように向かってきます。
追い掛けられるとつい逃げたくなってしまうのは人の性。まして、ルルーシュには自分が彼の探し人であるとわかっていましたので、逃げたい欲求は募るばかりです。
シュナイゼル皇子がお歩きになられますと、漣のように人垣が割れます。ルルーシュは逃げるタイミングを失いました。開き直り、シュナイゼル皇子に向き合います。次第にざわめく周囲にルルーシュは舌打ちしたい気分を押さえるのに必死でした。みんな、なんであんな子が、などと言っているに違いないのです。それは誤りだったのですが、ここにはそれを訂正してくれる親切な人もいません。
そうこうするうちに、シュナイゼル皇子がルルーシュの前にお立ちになります。
そして、ルルーシュの垂れたままの右手をお取りになられました。 手袋に包まれた手の甲に口づけを落とされますと、シュナイゼル皇子はにこりと微笑み、私と踊ってくださいませんか、とお聞きになります。
ルルーシュは引き攣りそうになる笑みで返事の代わりとしました。
是、と。
音楽が始まり、広間の中央ではダンスが始まりました。父が存命の頃、いつかは女に戻るのだからと女性パートのダンスを仕込まれていたおかげで恥をかかずにすんだことにルルーシュは安堵のため息を漏らします。
「浮かない顔をしているね。どうかしたかい?」
音楽に乗って、近づいては離れるお互いの顔。
「遣いの者が無礼を働いたかな?主人として非礼を詫びよう。部下の非礼は私の咎だ」
「C.C.とは?なんの事をおっしゃっているのですか。私は存じ上げません」
ルルーシュは冷ややかに返します。一曲目の曲が終わって、ごく自然に、二曲目が始まりました。
「しらばっくれようとしても無駄だよ。そのドレスは私の見立てさ。C.C.はよく仕事をしてくれた。彼女はマリアンヌおばさまに君の事を頼まれていたようだったからね。逆らうのではないかと思っていた。現に、今まで君の所在を教えてはくれなかったのだから」
「…マリアンヌ様、とは?」
「おいおい、まだそんな事を言うのかい?君は、マリアンヌおばさまの娘だろう?その」
シュナイゼルはルルーシュの身体を引き寄せました。皆が身体を揺らめかせて踊っている中、立ち止まった二人は周囲の注目を浴びています。
「美しい黒髪と、紫の瞳が証拠だよ」
「はなしてください」
右手首を捕まれ、腰に手を回されてルルーシュは逃げることが出来ませんでした。見下ろされる、シュナイゼルの青い瞳には、身を強張らせる惨めな少女が一人写っていました。
更にその、小さな少女の姿が目前に近づいて来たときです。
ぱしん、と音を立ててルルーシュの手首を捕らえていたシュナイゼルの手を叩き落とし、ルルーシュの背中に手を回して自由を取り戻してくれた者がありました。
「誰…?」
ルルーシュは頬を染めて尋ねます。
一方、シュナイゼルも突然の闖入者にびっくりして問いました。
「君は誰だい?」
しかし、その言葉と共に、時計台の鐘が、12の時を刻み始めました。
「お嬢様は、門限がお過ぎになっておられます。今日の所はこれで」
失礼致します、と、突然現れた青年は、ルルーシュの腕をとり、早足に歩き出しました。
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200706XX
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