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 さて、飛ぶように時間は過ぎて行き、今日は舞踏会の日です。ルルーシュはこの日の為に仕立てたドレスを義妹達に贈り、義母には以前仕立てたドレスに少しだけ手を加えた物を素知らぬふりで渡し、義母達の馬車を見送りました。
 舞踏会は夜からなのですが、しなければならない仕事が無尽蔵に湧いてくるルルーシュには、それは余り関係のないことでした。とはいえ、

「羨ましいわけではないが」
 義妹達を着飾らせるのは好きでした。シャーリーとカレンは母親に似たのか(考えてみればあの二人の父親をルルーシュは知りません)とても女性らしい体つきをしています。
 それに引き換え

「いや、だから別に羨ましいとかそんなんじゃない!」

 ルルーシュは自室に戻ると、風呂掃除で濡らしてしまった服を脱ぎました。
 日に焼けてもすぐに戻ってしまう白磁の肌。白いシャツから覗く真っ白い大腿は傷一つなく、積もったばかりの新雪に桃花の花弁を一ひら混ぜればこんな色になるでしょうか。

 そして、上のシャツを脱ぎます。
 顕れたのは、コルセットに包まれた、スレンダーな腹部と、うっすらと膨らむ胸部でした。

「羨ましいか?」
「だから羨ましくなどないと言っているだろう!しつこいぞ!」

 ついに勘忍袋の緒がブチ切れたルルーシュは、先程までは小さくしか聞こえなかった声が、急に肉声を帯びた事に気付きませんでした。苛々とシャツを脱ぎ捨てると、悲鳴を上げてスザクがシャツの軌道から飛びのきます。その姿を確認すると、ルルーシュは、いつの間にかその脇に立っていた、ライムグリーンの少女に気付き身構えました。
「何者だ!」

「義妹達が羨ましいか?」

「質問に答えろ!」

 こちらの警戒心に頓着しない様子の少女に、ますますルルーシュは苛立ちます。
 言っている内容にも、むかむかとしたものが込み上げてきました。

 本来は女性であったルルーシュに男装を課したのは、今は亡き父でした。
 父は生前、父が死んだら女性に戻れ、とルルーシュに言い遺していましたが、義母や義妹の手前、急に女装するのは何かと気恥ずかしく(断じて体型の違いを気にしている訳ではありません)結局一年以上がたった今も男として暮らしているのです。ですが、父は戸籍登録も男性で済ませてしまっていたらしく、女性的な物の一切から切り離されていたルルーシュは自分の性にコンプレックスを抱いていたのでした。

「私の名はC.C.。今夜の舞踏会にお前を連れていくのが、私に与えられた使命だ」

「はぁ?」

 突然とんちんかんな事を言われたルルーシュはクエスチョンマークを飛ばします。
 ですが、C.C.はやはりそんなルルーシュにも構わず話を続けます。全く、なんて自己中心的な女なのでしょう。
「今夜の舞踏会は、皇子の花嫁探しと偽った、実の従姉妹探しだ。王妹であった亡きマリアンヌが一子、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。お前を探すためのな」

「……何故、母の名を」

「私は魔女であり、すべてを見通す占者でもある」

 C.C.はその時ばかりは厳かでした。そして

「だからお前には舞踏会に来てもらわねば困るのだ」
……本当に人の話をきかない女です。

 魔女は腕を一振りしました。すると、一体どんな魔法でしょう(正真正銘の魔法なのですが)、ルルーシュはいつの間にか、華やかなドレスを纏っていました。
「ふむ、ぴったりじゃないか。」

 やるな、シュナイゼルの奴。そんな風につぶやきながら、C.C.は腕をもう一振りしました。するとどうした事でしょう、ルルーシュはいつの間にか、上等な馬車の座席に座っていました。

「な!」

「馬に魔法を掛けてある。王宮に着いたらこれを見せろ」
 傍らに座っていた魔女に渡されたのは、真っ白な封筒でした。見覚えがあります。義妹達が持っていた招待状と同じ物です。けれど、義妹達と違うのは、表がきに一つの署名があったことでした。
「ではな」

 魔女はそれだけを言うと、現れた時と同様、突然姿を消しました。それと同時に馬車が動き出します。

「ちょ、おい!」


 人の話を聞け!


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200706XX

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