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「見つかったようだな。大方どこかのお節介な住人が知らせたんだろう」

 ばたばたとした足音が、家の前で止まります。


「くそ、余計な事を…」
「そう言うな。長いこと空き家だった家に人が入っていけば、気になるのがヒトというものだ。」

「仕方ない、手助けしてやろう。」

 お前の母親に感謝しろ。



 バタン!と音を立てて扉が開かれました。中からは、肩に鼠を乗せた黒髪の少女が歩み出てきます。

 家の前には、半円を描くようにして三人の兵士と、先程見かけた銀髪の男、少しはなれたところに彼が乗って来たと思しき馬車がとまっていました。更に外周を囲むように、見物の近隣住民が物見高く見守っています。

「私に一体どんな御用件でしょうか」

 ルルーシュが尋ねました。

「いやぁ、我らが殿下が、貴女様をお探しで!先日の舞踏会にいらしたでしょう?一目惚れだそうでしてぇ、このガラスの靴にぴたりと会う方をお探していたんですー。あ、僕はシュナイゼル殿下の一の従者で、ロイドと申しますが!」
「…それで、この靴は?」
「なんでもその方が遺していったものらしいですよぉ?」
 履いて頂けますよね?

 ロイドは眼鏡の奥の冷たい青灰色の瞳を細めてにっこりと笑いました。

 ルルーシュは黒い革靴の紐を解きました。現れた白い素足は眩しいほどで、黒いズボンとの対比が鮮やかです。

 右足をそっと、ガラスの靴に差し込みます。
 小さな足はガラスの靴に沿うように納まりました。


「おめでとう!今日から貴女は皇太子殿下のお妃様でぇす!」

 ロイドは一仕事終えた顔でにんまりと笑いました。けれども、ルルーシュはガラスの靴から足を引き抜くと言い放ちました。

「残念ながら、私は妃にはなれません」
「なぁぜ?」
 クスクスと笑って、ルルーシュは余裕のそぶりです。

「だって私、男ですから。」

「貴様!」
「嘘を吐くな!」
「そのような陳腐な戯れ事で、我々を謀る気か!」
「嘘ではありません。何なら、確認して下さっても構いませんよ」

 婉然と、ルルーシュは微笑みました。

「…そうさせてもらってもいいかなぁ?」

「どうぞ」

 ルルーシュは下から順にシャツのボタンを外します。
 先ほどは確かにあったように見えた胸の膨らみがないのは一目で見て取れます。
 ルルーシュが女性であるならば、シャツの下には何かしらの細工がしてある筈でした。だって、マリアンヌ様の遺児は女の子だった筈なのですから。

 少しずつあらわになる腹部。真っ白で平らなそこから、少しずつ上に上り、臍、滑らかな腹部がかいまみえ、

「――。」
 一番上まで開けても、コルセットや布の類は一切見えず、そこには標準体型よりは僅かに華奢と見られる薄い胸板がありました。

「どうです?信じていただけましたでしょうか」

 ルルーシュはシャツから手を離すと、にっこりと笑いました。

 ロイドは、目許を愉快そうに滲ませながら失礼致しました、とお辞儀をしました。
「ご無礼をいたしました!」「申し訳ありませんでした!」
 白いシャツからのぞく、シャツより僅かに青白いほどの胸部は、何故か見てはいけない心地にかられます。先程まで高圧的な姿勢を取っていた三人の兵士も、慌てて謝罪をします。
 何故か逆らってはいけない威厳を、この少年から感じたのです。言葉遣いは丁寧なのに、命じることに逆らえない、従わざるを得ないと納得させるような、そんな気配でした。

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200706XX

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