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 ルルーシュはこっそり跳ね戸を開けました。階下には誰もいません。

 少しだけ。スザクの非常食を取りに行くだけだ、と何故か沸き上がる罪悪感に言い訳をしながら梯子を下ります。
 が、下りる過程ではた、と思いました。この部屋に住むようになってから、体調を崩すのは初めてでした。この部屋へはこの梯子を上らなければ入ることが出来ません。先程は彼に、考え無しに体を拭きたい、などと言ってしまいましたが、この梯子を、お湯を持って上るのはそれなりに大変な事ではないでしょうか。

 それなら風呂場の残り湯でも使った方が手間も省けて簡単な筈だ、と思いながらルルーシュは先に浴場に向かいました。


 ところが、浴場には先客がおりました。彼が、お湯を抜き、掃除をしていたのです。

「ルルーシュ?!」
「そんな事までさせていたのか、悪いな」
「ううん、楽しいから良い…じゃないよ。なんでここにいるの」
「だって、わざわざ俺の部屋までお湯を運ぶのは大変だろ?それに、寝込んでる間、鼠に食べ物をやり損なっていたんだ、それを取りにきたんだが」

「…鼠には僕が餌をあげておいたから。だから、ルルーシュは部屋に戻って?コルセット、つけてないだろ」
「あ…あぁ!」

 やけにすうすうすると思ったら。ルルーシュはそう思いながら、でも後片付けも大変だろう、此処なら流せば良いだけだし、と言葉を続けました。
 彼は、小さくため息を吐きながら、仕方ないな、とつぶやきます。
「じゃあ、少し待っていて。お湯を沸かしてくるから」
「あぁ、悪いな」
「そのかわり、ここから動かないでよ」

 念を押してスザクは浴室から出ていきました。体を拭くだけなら、台所の竃で十分だからでしょう。ルルーシュは、あとはすすぐだけだった浴室掃除をしてしまおうと、桶から水を杓に掬い、びしゃびしゃと撒いていきます。 その際、足元が濡れてしまうからとズボンをまくりあげてはいたのですが、うっかりシャツまで濡らしてしまいました。ルルーシュと水仕事は、切っても切れない悪縁に繋がれているに相違ありません。
 幸い今は暖かい季節ですので寒くはありませんが、病み上がりの身で(実は微熱があります)こんな恰好でいるのがばれたら、また彼に小言をもらってしまいそうだと思ったルルーシュは、ちょうど脱衣所、着替えもあることだし着替えてしまえと潔くシャツを脱いでしまいます。

 しかし。

「スザク君?トイレの電球が切れてしまったみたいなんだけど…………」

 開けられた扉の内と外。
 二人は固まってお互いを見るしかできませんでした。

 先に我にかえったミレイが上げた悲鳴を聞いたスザクが来客の知らせを忘れて、慌てて浴室に飛び込みルルーシュに杓を投げ付けられるのはその十秒後の事です。


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200706XX

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