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「魔女の使い魔、か。」


 熱でぼやけていつもの鮮明さを欠いているとは言え、ルルーシュの脳裏に沸き上がった幾十もの感情の中、1番上に浮き上がって来たのは「嘘」の一文字でした。
 その一文字にルルーシュの心は塗り潰されます。

 魔女は、今の所ルルーシュの味方のようです。彼女は王宮付きの占い師ですが、もし彼女が本当に皇子の味方なのであれば、ルルーシュを連れ去るなんて簡単な事なのです。なんせ彼女は神出鬼没の魔女なのですから。

 そして彼はその魔女の使い魔です。でもそれはおかしいのです。魔女は、表向きシュナイゼルに逆らってはいないようなのです。それには、それなりの誓約が彼女に課せられていると考えるのが妥当です。それなのに、その使い魔たる彼が、間接的な主人となるシュナイゼルに堂々と反抗できる訳がありません。
 だから、彼が魔女の使い魔という図説はありえない、とルルーシュは考えました。

 ならば彼は一体何者なのだろう。
 熱に浮かされた頭に、彼が囁きかけます。あと一日、この部屋から出ては行けない。

 けれど。


「身体がベタベタして気持ち悪い」

 彼手製のオートミールを食べながら、ルルーシュはつぶやきました。傍らでルルーシュの世話をやきながら忙しく働いている彼は、じゃあ後でお湯とタオルを持ってくるね、と言って作業に戻りました。
「さっきから何をしているんだ?」
「縄をね」
 よってるんだ。

 何に使うのかはさっぱりわかりませんでしたが、魔女の使い魔としてのお仕事なのかもしれない、とルルーシュは納得することにしてオートミールの最後の一口を完食しました。

「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」

 彼が笑って食器を持って行こうと手を延ばしました。綺麗に片付いた皿に満足そうに笑いながら、ふと、気付いた顔をして、そのまま顔を寄せてきます。
「な、なに」
「黙って」

 彼の右手がルルーシュの黒髪を掻き上げます。コツン、と額を合わせ、熱が無いことを確認して、彼の翡翠の瞳が柔らかく笑みました。
 途端、ルルーシュの心臓は走り出します。
 驚いて、恥ずかしいのに突き放せない何かが、彼の瞳には溢れていました。
(なんだ?)

(「僕は」)

 凪いだ緑の大きな瞳。
 少し童顔な、自称魔女の使い魔。

(「ルルーシュが」)

 髪を掻き上げる、あの時自分の手を引いてくれた大きな手がルルーシュの髪を梳きます。

(「好き」)


(…………)


 頭にじわりじわりと血が上るのがわかります。悶絶して転がり回りたい位に恥ずかしいのに、指一本動かせないのは一体どんな魔法なのでしょう。

「ルルーシュ?どうしたの、顔が赤いよ?」
 やっと僅かに隙間の空いた額に、ルルーシュは勢い良く顔を逸らしました。

「……なんでもない」
「そう?熱は大分下がったみたいだけど、ルルーシュはまだ起きちゃダメだからね」

 後でタオルとお湯、持ってくるからそれまで寝ててね。

 言い残して、彼は空いた器を持って階下に下りていきました。


 ルルーシュは頬の熱がひくまで一人、身体を縮こめていました。

 三日前とは違う、奇妙な昂揚があります。彼が触れた場所が異様に気になりました。

 俺は彼が、
(好きなのか)
 よく、わからない。

 ルルーシュの回りに、今までルルーシュを女の子と知っていた人はいませんでしたし(父はノーカウント)、あんな風に優しく接してくれた人はいませんでした(父はノーカウント)。

 近頃、色々な事が起き、バタバタしているせいで正常な判断が出来ていないのかもしれない、とルルーシュは思いました。
 いつも通りの事、と考えて、ルルーシュは不意に懸念事項を思い出します。

 あ。

「スザク…」

 彼はスザクにきちんと餌をやってくれているだろうか?

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200706XX

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